もやしのゲームレビューブログ

『Child of Light』レビュー。美しさを結集した流麗な芸術品。

ゲームタイトル Child of Light
評価 S(おすすめ)
プレイ時間 10時間
プレイ状況 クリア済み

www.ubisoft.com

ゲーム概要

『Child of Light』(以下、『本作』)は、異世界レムリアに迷い込んでしまった少女オーロラが、レムリアの蛍イグニキュラスと共に、元いた世界に帰るための旅をする、2DアドベンチャーRPGだ。

主人公のオーロラは、オーストリア侯爵の娘として、可愛がられて生きていた。ある日、目が覚めると、彼女は異世界レムリアに迷い込んでいた。行く当てもなくさまよい続けるオーロラだったが、彼女の前に燦爛とした蛍のイグニキュラスが現れる。イグニキュラスはオーロラに、「レムリアが闇の女王に支配されている事、太陽と月と星が女王に盗まれてしまっている事」を告げる。オーロラは、闇の女王を倒す事で元いた世界に戻ることができると考え、イグニキュラスと共にレムリアを救う旅に出る。

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王女オーロラと、蛍のイグニキュラス

本作では、フィールド探索にアクションアドベンチャー方式、戦闘にタイムライン型コマンドバトル方式を採用している。奥行きをもつ水彩画のような風景は美しく、淡彩な音楽が旅を引き立てる。奥深い戦略性をもった戦闘は程よい手ごたえで、クラシカルな音楽が戦いを引き立てる。本作は、王道ファンタジーRPGを鮮麗に描いた作品である。

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戦闘画面も絵本のように美しい
以下ネタバレ等詳細なゲーム内容を含むため注意

良かった点

時間の流れとコマンドバトルを両立した戦闘システム

みなさんは、ATBという呼称をご存じだろうか?ATBとは、アクティブタイムバトルの略称で、主にファイナルファンタジーシリーズ(以下、『FF』)で用いられている戦闘システムである。FFでは4~9と13が、このATBシステムを採用している。

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FF9におけるATBシステム

ATBシステム最大の特徴は、戦闘中常に時間が流れ続けることである。ドラゴンクエストシリーズポケットモンスターシリーズでは、プレイヤーがコマンドを選択し、コマンド入力の完了後、敵味方が攻撃を開始する。だが、ATBシステムでは、コマンド選択中にも時間が流れ続ける。そのため、手早くコマンドを入力できれば、すぐに攻撃できるが、コマンド選択にもたついてしまうと、敵に攻撃され続けてしまう。

このように、ATBシステムはコマンド制の「じっくり戦略を練って戦う」という醍醐味を奪っている。この欠点を解消するため、FF10ではCTB(カウントタイムバトル)というシステムが採用された。CTBシステムでは、ATBシステムと同じく時間の流れが存在する。しかし、プレイヤーがコマンドを選択している間は、時間の流れが停止する。これにより、リアルタイム性を持ちつつも、プレイヤーがじっくり戦略を練ることができる戦闘を可能にした。

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FF10におけるCTBシステム。ちなみに10は筆者の最も好きなFFだ。

本作の戦闘システム(以下、『ウェイト・キャストシステム』)はCTBを改善し、戦略性を向上させたものである。このシステムの画期的な点は、時間の流れをウェイトエリアとキャストエリアの二つに分けて表現した点である。

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Child of Lightにおける戦闘画面

戦闘が始まると、各キャラクターのアイコンが、ウェイトと書かれた左端から、キャストと書かれた右端へと移動する。各キャラクターのアイコンが、ウェイトエリアとキャストエリアの境目に到達すると、そのキャラクターのコマンド選択画面が表示される。コマンド選択中は時間の流れが一時停止するが、入力が完了すると、再び時間は流れだす。

キャストエリア内では、エリアの境界地点で入力したコマンドの内容により、アイコンの移動速度が変化する。大技ならゆっくりと、通常攻撃なら素早くといった具合だ。そして、アイコンがキャストエリア右端に到達した際に、エリアの境界地点で入力したコマンドが実行される。

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キャストエリア内での発動速度は、選択したコマンドにより上下する

さらに、ウェイト・キャストシステムは「妨害」という要素を加えることで、時間の流れを巧みにコマンドシステムへ落とし込んでいる。

妨害とは、キャストエリア内にいる敵を攻撃することによって、その敵アイコンの位置を、大きく左へ押し戻すことができるというシステムである。もちろん、自分がキャストエリア内にいる際に、敵から妨害を受けることもある。なるべく自分が妨害されないように、また敵を妨害できるようにと、コマンドを考え、選択する。この妨害システムが、コマンドバトルにおける、時間の駆け引きという面白さを生み出している。ウェイト・キャストシステムは、「時間の流れとコマンドバトルとの両立」という難題への、一つの到達解だろう。

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イグニキュラスを操作して、敵アイコンの移動速度を遅延させることもできる

絶妙な難易度のアクション要素とパズル要素

本作では、アクション要素とパズル要素の二つを用いて、フィールド探索を行う。主人公のオーロラは、トラップを避けつつフィールドを探索し、レバーや荷車などのギミックを動かすことで、道を切り開いていく。蛍のイグニキュラスは、暗闇を照らしたり、昇降機を動かしたりすることで、オーロラが先へ進むための支援をする。

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燭台をイグニキュラスが照らすことで、扉を開けることができる

本作では、アクション要素とパズル要素が絶妙な難易度で構成されているため、プレイヤーはストレスを感じることなくゲームを遊ぶことができる。本ゲームの主題は「少女オーロラの成長冒険譚」であり、アクション要素やパズル要素は、あくまでプレイヤーを飽きさせない為の一要素に過ぎない。これらの要素を難しくしすぎれば、プレイヤーはフラストレーションを感じて、ゲームを止めてしまう可能性がある。そのため本作では、アクション要素やパズル要素は、直感的に楽々とクリアできるようになっている。じっくりと試行錯誤するコマンド戦闘の合間に、ちょっとしたアクション要素を加えることによって、プレイヤーは気分をリフレッシュしてゲームを遊び続けることができる。

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フィールドには宝箱や回復アイテムも落ちている

おとぎ話のような世界観

本作の最も魅力的な点は、その美しい世界観である。少女オーロラが王女オーロラへと成長していく王道ストーリー、奥深さを持つ水彩画のような淡彩な絵作り、素朴だが情趣極まる音楽、これら全てが唯一無二の世界観を生み出している。本作では、おとぎ話にある絵本の世界に迷い込んだかのような体験を味わうことができる。

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陽光の日差しが鮮麗だ

悪かった点

手記という収集要素

本作には、「手記」と呼ばれる収集アイテム要素が存在する。この手記には、レムリア大陸の歴史が書かれており、全部で16種類存在する。この手記を全てを集めると、「完ぺきなソネット」という実績を解放することができる。しかし、1周のプレイで全ての手記を集めるということは、幾分難しい。

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手記はフィールド上を漂っている

本作はJRPGに強い影響を受けているためか、ストーリーを1周クリアすることで、ゲーム体験が終わるようになっている。そのため、隠しダンジョンや2周目プレイ時の隠しボスなどは存在しない(強くてニューゲームは存在する)。

しかし、この手記だけは、1周で全て集めることが困難である。エンディングを迎え、感慨に浸った後に、手記の実績だけ埋まっていないと、どうにも心残りが生まれてしまう。より確実に全手記を集められるような工夫があれば、心置きなくゲーム体験を、心に刻めるだろう。

総評:美しさを結集した流麗な芸術品

本作は、「おとぎの国での少女オーロラの成長冒険譚」を語るために、すべての要素が存在している。淡彩な風景と素朴な音楽がおとぎの国を作り出し、じっくりと熟考しがいのあるコマンドバトルは、プレイヤーを幻想的な世界に没入させる。プレイヤーをいらだて、おとぎの夢を覚まさぬよう、アクションパズル要素は直感的で容易なものにしている。すべての要素は、「おとぎの国での少女オーロラの成長冒険譚」という世界観を構築するために、存在しているのだ。美しいコンセプトから、ずれることなく造形された童話世界は、芸術品とも呼べる作品である。

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美しさを結集した流麗な芸術品