もやしのゲームレビューブログ

『Detroit: Become Human』レビュー。アンドロイドと人の命は等価か否か。

ゲームタイトル Detroit: Become Human
評価 S(おすすめ)
プレイ時間 15時間
プレイ状況 クリア済み

www.jp.playstation.com

ゲーム概要

『Detroit: Become Human』(以下、『デトロイト』)は、自我を持ち始めたアンドロイドが自らの大切なものを守ろうと葛藤するアドベンチャーゲームだ。

舞台は2038年のアメリカ、デトロイトシティ。人間と同じ見た目ながら、同等以上の身体能力や知性を持つアンドロイドは、社会に不可欠な存在になっていた。
そんな中、特定のアンドロイドが意志や感情を持ち始め、彼らは変異体と呼ばれる。プレイヤーは3人の変異体アンドロイド、「カーラ」「コナー」「マーカス」を操作する。QTEや選んだ選択肢によってシナリオが変化し、選択の連鎖によって彼らを取り巻く環境が大きく変化する。

アンドロイドと人の命は等価か否か、幾度となく考えさせられる作品である。

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選択肢の選択によってシナリオが分岐する
以下ネタバレ等詳細なゲーム内容を含むため注意

良かった点

シナリオの連鎖

本作における1番の特徴は、ストーリー分岐条件の多さだろう。プレイヤーはエンディングまでに、500近い(あくまで体感だが)選択を行う。これらの選択肢の中には、シナリオを大きく変化させる分岐点も多数存在する。

特に序盤では「ストラトフォードタワー(マーカス)」、「天敵(コナー)」の2編の選択肢が秀逸である。プレイヤーはマーカスを操作し、ストラトフォードタワーでアンドロイドの仲間の為に動き、アンドロイドの立場になって選択を行う。その次の話では、プレイヤーの操作はコナーに移行する。先ほど自身がマーカスとして行った犯行を、人間を補佐する警察アンドロイドのコナーとして捜査することになる。アンドロイドを守りたいマーカス側の立場と、事件の真相を突き止めたいコナー側の立場。この両者の間でプレイヤーは悩み、考え、選択することになる。

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ストラトフォードタワー編

また、この2編での選択肢は、時間的・空間的に大きなストーリーの変化を生み出すことになる。ストラトフォードタワー編では、「マーカスがサイモンを生かすか殺すか」という選択肢が存在する。この選択肢が別行動をしていたコナーにも影響し(空間的)、サイモンは後の「最後の切り札(コナー)」編でも重要な証人になる(時間的)。

デトロイトでは中盤から終盤にかけて、この時間的・空間的に大きな転換を及ぼす選択肢が連鎖する。これらが連鎖することで、プレイヤーは流動的でダイナミックなシナリオ体験を得ることができる。

悪かった点

QTEの成否によるストーリー変更

本作にはいつくかのQTEイベントが存在する。特に「鳥の巣(コナー)」編でのチェイスシーンは映画に匹敵する迫力で、心を惹かれた方も多いのではないだろうか。しかし、デトロイトQTEには、失敗するとストーリーが進行不能になるものが存在する。この「QTE失敗=バッドエンド」のイベントは、ゲーム内に数十回存在する。

筆者は「サイバーライフタワー(コナー)」編にてQTEを失敗し、警備員にコナーが殺されてしまった。その結果、以降コナーが出てくることはなく、後味の悪い終わり方を迎えてしまった。筆者の失敗はゲーム終盤だったためストーリーへの影響は薄いが、ゲーム最序盤の「夜のあらし(カーラ)」編にもこのようなイベントが存在する。プレイ開始1時間ほどでカーラを死なせてしまったプレイヤーは、『Detroit: Become Human』を満足に体験できないだろう。

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「夜のあらし(カーラ)」でのアリス死亡エンド

QTEというのは、動きの少ないアドベンチャーゲームにおいて、退屈させないための要素である。確かに派手で気持ちの良いQTEには、心躍るものがある。しかしデトロイトは、プレイヤーがアンドロイド達の気持ちになって、考え、選択し、彼らの結末を見届けるゲームだと私は思う。QTEの失敗によって彼らの運命が閉ざされてしまっては、どこかやるせない。

総評:アンドロイドと人の命は等価か否か

デトロイトに登場するアンドロイド達は、みな守るべきものを持っている。カーラは家族を、コナーは平和を、マーカスはアンドロイドの権利を守るため、人間と対立し、時に争う。

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3人の主人公たち

マーカスは大切な仲間を守るため、アンドロイド達を率いてデモ行進を行う。そんな中、仲間が人間に撃たれ、倒れていく。

カーラはアリスを守るため、カナダ行きのバス停に到着する。そこでは、2枚のカナダ行きバスチケットの落とし物と、バスチケットを無くして困っている親子に遭遇する。

プレイヤーはアンドロイドの彼らに、自身の心を投影する。自身がマーカスやカーラになった気持ちで悩み、善悪の天秤を揺れ動かす。

そんな、人とアンドロイドのはざまで揺れているキャラクターこそコナーだろう。マーカスとカーラでのシナリオを経て、プレイヤーは徐々にアンドロイドの感情や考えを知っていく。プレイヤーは次第にアンドロイドへ感情移入をするようになり、コナーもハンクとの交流で徐々に感情を学んでいく。そして、シナリオ終盤でコナーに対し、変異体になるかどうかの選択を選ばせる。この時点で、プレイヤーはアンドロイドの気持ちになって考える事ができるようになっている。

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コナーとマーカスの対峙(アンドロイド達の隠れ家となるジェリコは、旧約聖書のエリコをモチーフとしたのだろうか)

人としてもアンドロイドとしても、どちらとしても考えられるようになったプレイヤーは、仲間のアンドロイドが撃たれたら人間に撃ち返すだろうか?人間の親子が困っていたら、自身の危険も顧みずに助けるだろうか?そんな答えのない問いに対して、揺れる感情や悩んだ末に選ぶ選択こそが、デトロイトの最も魅力的な所だ。