もやしのゲームレビューブログ

『A Plague Tale: Innocence』レビュー。最高の題材を活かしきれなかった意欲作。

ゲームタイトル A Plague Tale: Innocence
評価 B(凡作)
プレイ時間 10時間
プレイ状況 クリア済み

aplaguetale.com

ゲーム概要

『A Plague Tale: Innocence』(以下、『本作』)は、姉のアミシアと弟のユーゴの2人が、疫病に覆われた中世ヨーロッパで、異端審問官やネズミの群れから逃避行を行う、ステルスアドベンチャーゲームだ。

姉のアミシアは15歳ながら、狩猟で鍛え上げたスリングの腕を持つ。彼女はスリングを用い、目の前の敵を倒すだけでなく、遠くの篝火を点火させることもできる。

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姉のアミシア

弟のユーゴは、まだわずか5歳だ。彼は病弱で隔離されていたため、アミシアとはほとんど関わりがなかった。ユーゴは小柄な体格を活かし、アミシアが入れないような、小さい穴や狭い屋根裏などに潜入できる。

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弟のユーゴ

他にも錬金術師のルカや、盗賊兄妹のアルチュールとメリー、力自慢のロドリックなど、多彩な少年少女の仲間と出会う。彼らは疫病が蔓延する過酷な世界で、何を感じ、どう生きていくのか。

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旅を共にする仲間たち

救いのない社会の中で、懸命に生き抜く少年少女たちの物語は、残酷だが美しい。

以下ネタバレ等詳細なゲーム内容を含むため注意

良かった点

陰鬱な世界とぎくしゃくした姉弟愛が魅力的な序盤

異端審問官による焼き討ち、疫病が蔓延した村、死体の積み重なる戦場。本作では、重苦しい中世ヨーロッパの社会を見事に表現している。先に進むほど救いが見えず、彼女らの心は次第に打ちひしがれていく。

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死体の積み重なる戦場跡

希望が見えない常闇の未来に、まだ15歳のアミシアは錯乱していく。彼女は次第に、ユーゴにきつく当たるようになり、姉弟の関係に亀裂が生じていく。

しかし、彼女らは生きるため、歩を進める。アミシアはスリングを使ってユーゴを助け、ユーゴは小柄な体格を活かして道を切り開く。お互いが協力し助け合うことで、姉弟は徐々に愛情を深めていく。

ネズミによるリスクリターンの駆け引き

本作では、疫病(Plague)をビジュアル的に表現するため、ネズミの集団におきかえて描いている。実際に中世ヨーロッパでは、黒死病(ペスト)はネズミを媒介にして大流行したといわれている。

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本作で幾度となく目にすることになる、ネズミの群れ

本作でのネズミの習性として、

  • 生き物を襲う
  • 火や光を恐れる

という特徴がある。アミシアとユーゴは、火の周りにいればネズミに襲われることはないが、火が消えてしまうと途端にネズミに囲まれ、ゲームオーバーになってしまう。

この習性をうまく利用することが、ゲーム攻略の鍵となる。本作にはネズミの他に、異端審問官の兵士たちが行く手を阻む。彼らに近寄られると、幼弱なアミシアらは即座に殺されてしまう。しかし、このネズミの習性を利用することで、兵士たちを効率的に排除できる。

例えば、道端に落ちている石をスリングに装着し、兵士のランタンに向けて投げれば、あっという間に兵士はネズミに覆いつくされる。

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ネズミを利用して兵士を排除

また、錬金術師のルカは

  • 遠距離から篝火に点火できる「イグニファー」
  • 遠距離から火を消すことができる「エクスティングス」

などを開発してくれる。これらを利用することで、多種多様な方法で道を切り開くことが可能になる。アミシアたちにとってネズミは天敵だが、利用価値のある敵なのだ。

サブキャラクターと過ごす青春

本作では、全てのサブキャラクターに最適な配役がされている。

  • 錬金術師のルカ
  • 盗賊兄妹のアルチュールとメリー
  • 力自慢のロドリック

などと旅を共にする。

彼らは、アミシアたちと同じ少年少女である。共に困難を乗り越え、友情を深めながら共同生活を行う点は、さながらJRPGの青春のように美しい。

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仲間と共に決戦に向かう様子

悪かった点

駆け足で説明不足なストーリー

本作の序盤は、キャラクターの心情や陰鬱な世界観が濃密に描かれており、まさに『Plague Tale(疫病の物語)』だった。しかし、後半になると話が飛び飛びになり、多くの要素が説明されないままエンディングを迎えてしまった。

筆者が疑問に感じた点を抜粋すると、

  • なぜアミシアたちは汚染された街にいながら、疫病に感染しないのか
  • なぜアミシアたちが自宅に帰郷した段階で、ネズミが活性化したのか
  • なぜアミシアの父や家来の身体は、ネズミに食べられなかったのか
  • 過去にも同様の疫病が発生していたらしいが、本作で疫病の連鎖は止まったのか
  • なぜユーゴにプリマ・マキュラがあるのに、アミシアや父母にはないのか
  • ユーゴを殺すことで、疫病は治まるのではないのか
  • なぜユーゴは一時、異端審問官側についたのか
  • 異端審問官はどうやってプリマ・マキュラの血が必要だと知ったのか

などなど、語られていない部分が多いと感じる。次回作があるからなのか、それとも単に説明不足だったたけなのかどうかは分からないが、どこか釈然としないシナリオだった。

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ユーゴは救世主なのか悪魔なのか

活かしきれていない時代背景

本作は、1349年のフランス王国が舞台になっている。この時代のフランスと言えば、イギリスとの王位継承権をめぐる英仏百年戦争の真っ最中だ。フランスは劣勢状態にあり、フランス北部で行われたクレシ―の戦いでは大敗北を喫した。しかし、1348年ごろ、黒死病(ペスト)が大流行したため、イギリス軍は撤退を余儀なくされた。ちなみに、この黒死病(ペスト)では、ヨーロッパ全人口の30%~60%が死亡したと言われている。

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感染拡大を防ぐために殺された人々

しかし、本作ではこの凄惨な舞台設定を活かしきれていないと感じる。百年戦争の面影は、死体の積み重なる戦場跡しかなく、直接ストーリーには絡んでこない。当時のフランスでは、ユダヤ教徒が毒を散布したという噂が広まり大虐殺が起きたが、そんな様子も見られなかった。ペストの凄惨さや教皇の設定を活かすのならば、イタリアを舞台にした方が良かったのではないか。

いきなり始まる怪獣大バトル

筆者が最も残念だった点はこれだ。筆者は本作を「か弱い姉弟が残酷な世界で、必死に抗いて生きていく」話だと考えていた。少なくとも序盤は、この展開で話が進んでいた。

しかし、終盤にユーゴが覚醒した後、境遇は一変する。ユーゴはネズミを操り、アミシアは邪魔な敵を容赦なく排除する。か弱い姉弟だった2人は、隠れずとも正面から敵を一掃できるようになってしまっているのだ。

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アミシアとユーゴは、もうネズミの群れに恐れない

そして、最終決戦はもはや怪獣大バトル。本作を始めた際には、ラスボス戦が「黒のネズミ群vs白のネズミ群」になるとは、思ってもいなかった。「か弱い姉弟が残酷な世界で、必死に抗き生きていく」という魅力的な構想を、最後まで貫いて欲しかった。

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筆者はこれをネズミトルネードと呼んでいる

総評:最高の題材を活かしきれなかった意欲作

本作の目指した世界観には、唯一無二の美しさがある。逃げ惑う姉と弟が協力し、仲間を増やし、陰鬱な世界で必死に生きていく様子は、はかなく美しい。

しかし、あと一歩のところでこの魅力を、最後まで突き通せなかった。本作は最高の題材ながら、それを活かしきれなかった意欲作である。

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最高の題材を活かしきれなかった意欲作